見直されている"食べる順番"
少し前に、「食べる順番ダイエット」が流行しました。「食べる順番を変えてやせましょう」というものです。"ダイエット=カロリーを減らす"と考えられがちですが、当時からカロリー制限によるダイエットに反対の立場を示す専門家も少なくありませんでした。カロリーを減らすと必要な栄養が摂れず、筋肉や骨まで削れて、体は内側から壊れます。肝心の代謝は落ちて、むしろ太りやすい体質になってしまうからです。
当時の「食べる順番ダイエット」は、野菜を最初に食べる「ベジファースト」でした。食物繊維が豊富な野菜を先に食べることで、食後の血糖値上昇が抑えられ、インスリン分泌が必要最小限になるから太りにくくなる‥‥これがベジファーストの考え方です。『日本人の食事摂取基準』2020年版でも、「野菜を先に食べることで食後血糖の上昇が抑制され、HbA1cが低下、体重も減少することが報告されている」とありました。ところが、最新の2025年版(5年毎に改訂)では、このベジファーストに関する記述が削除されています。これは、ベジファーストの効果に関する科学論文に"疑問符"がついたからではないかと考えられます。実際、米国糖尿病学会を含め、糖尿病や肥満の予防のためにベジファーストを推奨している海外の専門機関はありません。
ベジファースト効果の"疑問符"とは、実は、脂質から先に摂る「オイルファースト」によるものだったのではないかということです。この研究では、先に食べる野菜に、オリーブオイル入りドレッシングをかけていたことがわかったのです。野菜だけで食後の血糖上昇を抑制できたという報告が出ない一方で、油脂で血糖上昇を抑制できたという報告は多々あります。野菜とともに摂る油脂の作用によって、食後の血糖値の上昇が抑えられ、それがインスリン濃度の低減(=減量)にもつながった可能性が高いのです。
脂質ファーストで血糖値の上昇が抑えられるのは、小腸から分泌されるホルモン「インクレチン」が関わっています。脂質を摂ると、小腸上部のK細胞から分泌されるGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)というインクレチンが分泌されます。インクレチンとは、小腸から分泌されるインスリン分泌を促すホルモンの総称で、GIPとGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の2種類があります。GIPの2つの役割から、血糖値上昇を抑え、結果としてダイエット効果をもたらしたと考えられます。
① すい臓に働きかけ、インスリンの分泌を早める:脂質を先に摂ることでGIPを介してインスリンが適切なタイミングで速やかに分泌。その後糖質を摂っても血糖値上昇を最小限に留めることができる。結果としてトータルのインスリン分泌量も抑えられ、インスリンの脂肪合成の役目は限定的となる(食後高血糖が避けられたら、糖質疲労も防げる)。
② GIPが、「レプチン」の分泌を促したり直接脳に作用して、食欲を抑制する:脂質は脳に働きかけて食欲を抑え、食べすぎを防いでくれる。
(出典:https://president.jp/articles/)
■ダイエットに有効な"オイルファースト"
ダイエットにおける「オイルファースト」は、従来の糖質制限やカロリー制限とは異なる新しいアプローチとして注目されています。
オイルファーストのメカニズムとエビデンス
オイルファーストの主なメカニズムは、以下の3つのポイントに集約されます。
(1)血糖値の安定化
食事の最初に脂質を摂取することで、その後の糖質の吸収が緩やかになります。すると、食後の血糖値の急激な上昇(血糖値スパイク)が抑制されます。血糖値スパイクは、インスリンの過剰分泌を招き、脂肪の蓄積を促進するだけでなく、空腹感を早く引き起こす原因となります。
※2型糖尿病患者を対象とした研究では、食事の前に少量のオリーブオイルを摂取することで、食後の血糖値上昇が有意に抑制されたことが報告されています (Sasson et al., 2017)。また、健康な成人を対象とした研究でも、脂肪を先に摂取することで、その後の炭水化物の摂取による血糖値の上昇が緩やかになることが示されています (Wolever et al., 1988)。
(2)満腹感の向上と食欲抑制
脂質は、たんぱく質や炭水化物と比較して、消化に時間がかかります。これにより胃の中に食物が長く留まり、満腹感が持続しやすくなります。また、脂質の摂取は、コレシストキニン(CCK)やGLP-1などの消化管ホルモンの分泌を刺激します。これらのホルモンは、脳に満腹感を伝えることで、食欲を抑制する効果があります。
※肥満者対象の研究では、食事の最初に脂質を多く含む食品を摂取することで、食後の満腹感が向上し、その後の食事量が減少することが報告されています (Rolls et al., 1999)。また、健康な成人対象の研究では、脂質の摂取がCCKの分泌を促進し、満腹感を持続させる効果があることが示されています (MacIntosh et al., 2001)。
(3)インスリン抵抗性の改善
血糖値の安定化と満腹感の向上は、長期的に見るとインスリン抵抗性の改善にも繋がり得ます。血糖値スパイクの頻度が減少することで、膵臓のインスリン分泌への負担が軽減され、細胞のインスリン感受性が高まる可能性があります。
※高脂肪食がインスリン抵抗性を引き起こすという従来の概念とは異なり、良質な脂質を適切に摂取し、血糖値の急上昇を避ける食事法は、インスリン感受性を改善する可能性が示唆されています (Liu et al., 2011)。特に、単一不飽和脂肪酸(MUFA)や多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取は、インスリン感受性の改善に関連すると言われています。
オイルファーストの注意点
●良質な脂質を選ぶ:飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取は避けるべき。アボカド、ナッツ類、オリーブオイル、MCTオイル、青魚などに含まれる不飽和脂肪酸を積極的に摂取しましょう。
●適量を守る:脂質は高カロリーであるため、摂取しすぎるとカロリーオーバーになる恐れがあります。体の反応を見ながら調整することが大切です。
●バランスの取れた食事:オイルファーストは、あくまで食事の順序に関するアプローチであり、食事全体のバランスが重要であることに変わりはありません。たんぱく質や野菜も十分に摂取することを心がけましょう。
いつもありがとうございます。
愛・感謝 村雨カレン







