高すぎる枕は脳卒中につながる?
国立循環器病研究センター(国循)は今年1月、脳卒中の原因の1つである「特発性椎骨動脈解離」は枕が高いほど発症割合も高く、より固い枕では関連が顕著であることを立証し、新たな疾患概念を提唱したことを発表しました(欧州の学術誌「European Stroke Journal」に掲載)。
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳の一部の機能が失われ、身体の一部が麻痺するなどの症状が出る疾患です。通常は加齢によって、中には若年~中年期でも生活習慣病などによって起きるとされ、「2022年人口動態統計の概況」(厚生労働省)によれば、死因の第4位(脳血管疾患)となっています。
特発性椎骨動脈解離は、脳卒中の原因の1つで、首の後ろの椎骨動脈が裂けてしまうことで脳卒中を引き起こします。患者の約18%に何らかの障害が残り、根本治療がなく、予防のための原因究明が求められていましたが、約2/3の患者では原因不明でした。
研究チームは、起床時発症の患者の中に、極端に高い枕を使っている人がいることに着目し、「高い枕」と「特発性椎骨動脈解離」の関連について調査、検討したのです。
調査の結果、高い枕の使用は症例群が対照群より多く、12cm以上の枕では34%対15%、15cm以上の枕では17%対1.9%で、高い枕の使用と特発性椎骨動脈解離の発症には関連が見られました。そして、枕が高ければ高いほど、特発性椎骨動脈解離の発症割合が高いことも示唆され、この関連は枕が硬いほど顕著で、柔らかい枕では緩和されていたそうです。
研究では、高い枕の使用が特発性椎骨動脈解離の発症に関連があり、特発性椎骨動脈解離の約1割が高い枕の使用に起因し得ることが示されました。枕の使用は容易に修正可能であるため、予防につながり得る点において今回の成果は意義があるとしています。
時代劇などでも見られますが、日本には「殿様枕」と呼ばれる高く硬い枕が17~19世紀に使われていました。髪型を維持するのに有効だったとされ、名前は"殿様"だが広く庶民の間にも流通していました。1800年代の複数の随筆には、「寿命三寸楽四寸(12cm程度の高い枕は髪型が崩れず楽だが9cm程度が早死にしなくて済む)」(右図)といった言説が流布していたという記載が残されており、当時の人々は、高い枕と脳卒中との隠れた関連性を認識していた可能性がありそうです。研究チームは、今回示された患者が特有の疾患像を有していることから、暫定的な疾患概念「殿様枕症候群(Shogun pillow syndrome)」を提唱しています。枕の硬さや高さなどで、睡眠の質が変わることは周知のところですが、何気ない睡眠習慣が、脳卒中の重要危険因子になることが世に広く認識され、脳卒中で困る患者が少しでも減ることが期待されます。
(出典:https://news.mynavi.jp/)
■脳動脈解離(椎骨動脈乖離)
脳動脈解離は、40~50代の男性に多くみられます。原因不明もありますが、外傷や首を過度に曲げた場合にも起こります。場合によっては、クモ膜下出血や脳梗塞のリスクとなるため、手術が必要になることもあります。脳動脈解離とは、脳動脈の壁にある三層のうち内側の膜が裂けることで発症する疾患です。血管壁内に血液が流入することで血管内腔が狭くなって血流が滞り脳梗塞を生じたり、血管壁が破綻してクモ膜下出血を生じたりします。
脳の動脈の壁は内膜、中膜、外膜という構成になっています。この内膜と中膜のあいだに「内弾性板」という強固な組織があるのですが、加齢や高血圧で強い負荷を長く受けることで次第に弱くなり、断裂しやすくなると考えられています。
脳動脈解離が発生する脳の部位は、内頚動脈系(主に大脳半球に血流を送る血管)と椎骨・脳底動脈系(主に小脳や脳幹に血流を送る血管)があります。
脳動脈解離は発生部位は、アジア人は椎骨・脳底動脈系に多いことが知られています。
脳動脈解離が起こる原因
脳動脈解離が起こる原因は、外傷性、進展性、特発性の3パターンに分けられます。
【外傷性】外傷性の脳動脈解離は外部からの衝撃で脳の血管が裂けて発症するタイプ。強い衝撃は明らかでなく、頚部の進展が生じた場合(ゴルフ、カイロプラクティックなど)でも生じることがある。
【進展性】内頚動脈や椎骨動脈が直接解離をきたしていなくても、その中枢側での解離(大動脈解離)が生じた場合、解離の進展によりその末梢血管である内頚動脈や椎骨動脈にまで進展することがある。
【特発性】脳動脈解離の原因が不明の場合。
脳動脈解離の症状、治療方法
椎骨動脈解離の代表的な症状は、後頭部に突然の強い頭痛を感じることです。中年男性が突然の強い後頭部痛を訴える場合には、脳動脈解離が起きているケースがみられることがあります。動脈解離によりくも膜下出血を生じた場合は、強烈な頭痛もしくは意識障害を生じ、場合によっては死に至る可能性があります。
脳動脈乖離の検査はMRI、MRA、3D-CTA、脳血管撮影などで行われ、解離の進行などに合わせ、抗血栓薬による投薬や、コイル塞栓術、開頭クリッピングの手術が行われます。
脳動脈解離の前兆があったら、すぐに病院を受診して早期発見することが重要です。
代表的な前兆としては、今までに経験したことがない頭痛や、50歳以降における初発の頭痛などが挙げられます。
いつもありがとうございます。
愛・感謝 村雨カレン