2024年8月22日木曜日

PM2.5と循環器疾患

 喫煙と循環器疾患

 たばこを吸うと、動脈硬化や血栓の形成が進むことから、虚血性心疾患を引き起こす原因となります。また、脳卒中(脳出血、くも膜出血、脳梗塞)のリスクを高めます。それだけでなく、喫煙は動脈硬化性疾患の早期発症や重症化にもつながることが報告されています。

 たばこの煙の血管系への影響 

 たばこの煙の中には、ニコチン、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、シアン化水素(HCN)、活性酸素(O2-)などの有害化学物質が含まれます。ニコチンは交感神経を刺激して、心拍数の増加、血圧上昇、心筋の収縮及び酸素需要の増加を引き起こします。同時に、血管収縮による血流量の低下、酸素や栄養の供給低下を招きます。COは、酸素供給能力の低下を招くとともに、血管内皮の組織障害や血栓形成の要因になります。活性酸素は炎症反応を誘発し、血管内皮の組織障害、脂質過酸化、インスリン抵抗性、血小板凝集などを通じて、動脈硬化や血栓の形成を引き起こします。

【虚血性心疾患】:虚血性心疾患には、狭心症や心筋梗塞があります。喫煙によって動脈の炎症や収縮が引き起こされ、動脈硬化や血栓の形成が進みます。また、血小板の凝集も血栓の形成につながります。これらの機序(メカニズム)の相互関連によって、虚血性心疾患を発症します。研究から、喫煙が虚血性心疾患の発症、および死亡リスクの増加は明らかです。また、喫煙本数を減らしたり、低タール・低ニコチンたばこへ切り替えても、虚血性心疾患のリスク低下にはつながらないとの結論が示されています(米国の報告書より)。

【脳卒中】:喫煙による脳の動脈の動脈硬化や血栓の形成、炎症反応により、脳梗塞やくも膜下出血の発症、および死亡のリスクが高まります。

【その他喫煙によって引き起こされる循環器疾患】:喫煙によって、末梢の動脈硬化症、主に閉塞性動脈硬化症や頸動脈硬化症のリスクが高まります。さらに、腹部大動脈瘤の破裂にも影響していることが明らかになっています。

 受動喫煙と循環器疾患 

 たばこの有害化学物質は、副流煙と喫煙者が吐き出した呼出煙とが混じりあった「環境たばこ煙」の中にも含まれます。そのため、喫煙者本人だけでなく、周りの人の健康へも悪影響を及ぼします。たばこ煙に晒された非喫煙者も、喫煙者本人と同様の機序で虚血性心疾患、脳卒中などのリスクが高まります。受動喫煙と、虚血性心疾患や脳卒中との関連には、因果関係の推定に十分な証拠がある(レベル1)と判断されています。

 加熱式たばこと循環器疾患 

 加熱式たばこは、一酸化炭素など他の有害化学物質については紙巻たばこよりも少ないという報告はあるものの、一方で、紙巻たばこには含まれない有害化学物質や、紙巻たばこよりも多く含む物質があるという指摘もあります。世界保健機構(WHO)の報告によると、加熱式たばこが紙巻たばこと類似した心血管毒性を有することが示唆されています。

(出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)


■PM2.5と循環器疾患の発生・増悪

 日本国内では大気汚染物質のうち、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化窒素、光化学オキシダント、浮遊粒子状物質、微小粒子状物質について大気環境基準が定められています。70年代に環境基準が設定され、ガス状汚染物質や浮遊粒子状物質の濃度は大きく減少しました。

 一方、粒径が2.5μm以下のPM2.5は粗大粒子よりも肺の奥深くに沈着することからその健康影響が懸念され、09年9月に環境基準が設定されました。PM2.5は中国からの越境汚染が話題になりますが、国内でも喫煙可能な室内は、北京市の最悪時の濃度と変わらないことは未だにあまり報道されていません。欧米を中心に循環器疾患に対する影響の知見は多いのですが、日本国内での疫学知見は少なく、最近ようやく認識されてきたという状況です。

 動物実験や毒性学的研究により、呼吸により肺に吸入されたPMから循環器疾患の発症や既存の循環器疾患の増悪に至るまでには以下の3経路が考えられています。

(1)肺組織での酸化ストレスと炎症を介する経路 

(2)肺の知覚神経終末や受容体を介する経路 

(3)PMやその成分が直接血管内へ移行する経路

 PMへの曝露により,肺胞洗浄液や血液中の炎症性サイトカインが増加することが報告されています。肺局所で放出された炎症誘発物質(サイトカインなど)や生理活性物質が全身循環に広がり、血管系や凝固系へ影響を及ぼす可能性があります。これまでの多くの動物実験より、PM曝露による肺の炎症の程度が、全身のサイトカインレベルや血管の機能不全と相関することも観察されています。このような炎症を介して、動脈硬化の進展やプラークの脆弱化をきたし、最終的には循環器疾患の発症に関わると考えられています。

 一方ラットへのPM曝露により心拍変動の減少がみられ、ヒトへの曝露実験でも同様の変化が観察されました。これはPM曝露による急性の反応であり、自律神経のアンバランスを介して不整脈を起こしやすくし、血管収縮や内皮機能不全をきたすと考えられています。

吸い込まれたPM2.5の行方

●気管、気管支に達したPM2.5

 気道の表面(上皮)の粘液に溶けやすい成分は、 細胞から血液中に吸収されます。不溶性粒子は、食道に飲み込まれるか、痰として吐き出されます。

●肺胞に達したPM2.5(右図)

 不溶性粒子の一部は肺胞マクロファージに食べられ、その後、マクロファージが気管支末端まで移動します。また、不溶性粒子の一部は、そのまま肺組織に沈着します。そして、溶けやすい成分は、血液中に吸収されて全身を巡ることになります。


いつもありがとうございます。

愛・感謝 村雨カレン

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