2022年5月19日木曜日

脳腸相関とセロトニン

 "腹が立つ"は科学的にも理がある

 大腸の粘膜に炎症が起こって潰瘍ができる病気に、潰瘍性大腸炎があります。悪化しても大腸を全摘する手術で命はほとんど助かりますが、栄養が低下して元気がなくなったり、免疫力が低下したりします。そこから、大腸は便をつくって排出するだけでなく、もっと多くの仕事をしているのではないかと考えられるようになりました。

 大腸をとってしまうと元気がなくなるのは、脳と腸が密接に関わっているからです。大腸には多くの神経細胞があり、交感神経系や副交感神経系を介して脳とつながっています。お腹の調子が悪いと気分が沈み、逆に脳にストレスがかかるとお腹の調子が悪くなるといったように、脳と腸が双方向に影響し合うことを"脳腸相関"といいます。日本語には「腹が立つ」「腑に落ちる」「腹が黒い」などの表現があり、お腹と脳(心)がつながっていることを体験的に知っていたと思われます。

 大腸には免疫機能もあります。口からは食物だけでなく、多くの病原菌も入ってきます。危険な侵入物から身を守るために、腸管では食品のように安全なものと、病原菌のように危険なものを識別しています。安全なものに対しては、制御性T細胞(Tレグ)と呼ばれる免疫担当細胞が免疫を弱めるように働き(経口免疫寛容)、病原性のあるものに対しては抗体(主としてIgA抗体)をつくって腸管から体内に吸収されるのを防いでいます。これを"腸管免疫"といいます。腸管免疫がうまく働かなくなると、体全体の免疫も低下してきます。近年、腸の働きの維持のために腸内細菌が重要な役割を担っていることがわかってきました。

 脳腸相関ということでは、腸内細菌は神経伝達物質もつくっています。神経伝達物質は神経細胞間の情報伝達を担っている物質で、セロトニンやドーパミンなどがあります。たとえばセロトニンは感情のコントロールや精神の安定に深く関わっている物質で、不足するとうつ病を発症する原因ともなります。

 小刻みな歩行になるなどの症状がみられるパーキンソン病は、ドーパミンが働かなくなることで発症します。一般には脳・神経の病気と思われていますが、最新の研究では、原因が大腸にあるのではないか、と言われるようになってきました。大腸でのドーパミンの産生が減り、それが神経を伝わって脳にまで広がって発症するのではないかというのです。

 また、神経難病の一つである多発性硬化症にも腸内細菌が関係しており、糞便移植(健康な人の便に含まれる腸内細菌を病気の人に投与する治療法)をすると改善することがあります。

 このように腸と脳(心)は密接に関係しています。それを結びつけているのが腸内細菌です。最近では腸内細菌のバランスの乱れが、肥満、花粉症、糖尿病、大腸がんなどさまざまな疾患とも密接に関係していることが明らかになりつつあります。

(出典:https://www.asahi.com/)


■腸内セロトニンと脳内セロトニン

 セロトニン(serotonin, 5-HT)は、トリプトファン(必須アミノ酸の一種)から生合成される神経伝達物質です。体内に存在する約10mg程度のセロトニンのうち約90%は消化器内にあり、これが「腸は第2の脳」といわれる理由の一つになっています。小腸の粘膜細胞内にあり、ぜん動運動に作用し、消化を助けて整腸作用があります。昨今急増している過敏性腸症候群(IBS)の症状にもセロトニンが関連しているといわれています。体内の残り10%のセロトニンのうち、8%は血小板に収納され血液中を流れています。血液中のセロトニンには、血液を凝固させる止血作用や、血管の収縮作用などがあります。


人間の活動に大きな影響を与える脳内セロトニン

 そして、ほとんどの病気の原因といわれるストレスなど人間の精神面に大きな影響を与えているのが、脳内の中枢神経に存在している僅か2%のセロトニンです。体内時計を調節したり、メラトニンの原料となったり、ドーパミンやノルアドレナリンの作用を制御して、気分や感情のコントロール、衝動行動や依存症の抑制をしたりしています。また、痛覚の抑制(鎮痛作用)、海馬における記憶力や学習効果にも影響を及ぼします。咀嚼や呼吸といった反復運動の機能にも作用しています。脳内セロトニンは日常の些細なストレスによっても使われるため、ストレス社会といわれる現代においては、セロトニン量は不足気味で、セロトニン神経系の働きも鈍ります。うつ病などの精神疾患が増える原因でもあります。


脳内セロトニンの原料を食事で摂るのは難しい

 脳内セロトニンを増やすために、原料のトリプトファンを多く含む食材を摂ればいいと勧める先生もいますが、実はそう簡単ではありません。トリプトファンの代謝は極めて多様かつ複雑です。食事で摂ったトリプトファンがセロトニン経路に使われるのはごく一部で、しかも大部分が腸内セロトニンの合成に消費されます。また、食事で摂ったトリプトファンはそう簡単には脳内には入りません。血管から脳への物質の関所「血液脳関門」(脳毛細血管の内皮細胞)の通過にあたり、トリプトファンは他のアミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン・フェニルアラニン・チロシン・メチオニン)と共通の輸送体を使って脳内に入るため、高たんぱく食など他のアミノ酸が多い環境ではトリプトファンはほとんど脳内に入らず、脳内セロトニンの合成にはつながりません。

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【脳内のセロトニンを活性化させるには】

 基本は不規則な生活や睡眠不足などの生活習慣の改善です。セロトニンは太陽の出ている昼間に分泌されやすく、睡眠中や日没後は分泌が少なくなります。『昼間に活動し夜は寝る』という人間本来の生活リズムが大切です。また、セロトニンにはリズム運動によって活性化される特徴がありますから、歩行運動、食事の際の咀嚼、意識的な呼吸などを心がけましょう。当学会の研究素材「ラフマ」には、脳内セロトニンの分泌促進、及び脳神経細胞膜の流動性改善に関するデータがあります。


いつもありがとうございます。

愛・感謝 村雨カレン

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